5. 断られに行った面接で…



【 西村綾子 STORY 5. 】

日本ロレックスの受付で多様なお客様と向き合って
いるうちに「言葉って面白い」と気づき始めた頃、
人前で話す仕事への足掛かりとなる最初の転機はやってきました。



私の地元で商売をされていて、ご自分でも本業の傍ら
イベントの司会をされている方とのご縁です。

業界を知るその方は、なぜか私にタレントの仕事が
向いていると思われたようで、名古屋の老舗タレント
事務所の先輩を紹介してくださったのです。



役割さえ果たせれば役に立てることを知り、
言葉の面白さに気づき始めていた私にとって、
今思えば、すごいタイミングでやって来た話だったの
ですけれど、このころの私は、まったくもって
内向的な性格のままでしたから、

(人前でマイク持ってニコニコ話すなんて無理‥)

と、思いながらも、その場で断る勇気がなくて、
返事を保留して自宅に帰ったのでした。



その当時私は、何か”手に職”をつけなければ、と
漠然と思っていました。

けれど、お話ししてきましたように、
私は自分で向き不向きを選べないし
選び方もわかりません。

そして私のイメージする”手に職”は、
何かの専門家や職人さんでした。


(でも待てよ、
これもある意味 “手に職”って言えるのかな)


何の資格も特技もない私を、
どこかが雇い続けてくれるのだろうか、という
ぼんやりとした不安が当時あったのですね。

帰宅して、母に経緯を伝えた上で聞いてみました。


「これも手に職って言えると思う?」


すると、慌ただしく夕飯の支度をしていた母は、
背を向けたまま「そうなんじゃないの」と答えました。

私が、人前で話す仕事を ”手に職”として初めて意識をした瞬間です。



とは言いながら、
(これも手に職かぁ)と受け止める自分と、
(いやいや何言ってんの?無理でしょ)と拒絶する自分
がいて、2対8くらいで拒絶に傾いていました。


(でも、拒絶ならこの話を断らなければならないのよね。なんて伝えればいいの…)


私にとってこれは仕事ではない、つまり
素の私に関することなので”役割モード”が働かず、
断ったら相手がどう思うかな、失礼かな、
なんて言えばいいんだろ、などと思考が深みにはまっていくのです。



(そうだ…事務所に面接に行くだけは行こう。
向いているか向いていないかを判断するのは
あちらなんだから。
私が決めなくていいんだった。

それにこんなに内向的な私が受かるわけがない。
断られればそれで話を終えられるんだし)


我ながら良い考えだと思い、面接に行くことにしました。



















写真は多分、事務所の面接に行くときに
貼ったものだと思われます。
証明写真で撮影した小さな写真…
四半世紀以上前のもので昭和感満載です(^_^;)





【 6 】へ続きます